あなたのための物語(長谷敏司、ハヤカワSFシリーズJコレクション)

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SFならではの面白さってのはあるよな、とこういうのを読むと思う。

作者は、現在最もアニメ化して欲しい作品である『円環少女』の長谷敏司
幼女の描写に定評があるのですが、残念ながら本作に幼女は登場しません。

主人公はITPを研究する科学者、サマンサ・ウォーカー。
ITPというのは”イメージ・トランスファープロトコル”の略であり”脳内に擬似神経を形成することで経験や感情を直接伝達する言語”です。
一言にすると”脳をハードディスク化する技術”かな。
この技術が生み出す様々な問題が、本作の土台となります。

ITPにより脳の情報をコンピュータで読み書きできるなら、人格をコンピュータ上に再現することもできる。
そうして生まれたのがもう一人の主人公、ITPテキストによる仮装人格《wanna be》です。
サマンサは小説を書かせるために《wanna be》を学習・成長させていきます。
科学者とAIの対話が物語の中心というのは、いかにもSFらしい。

さて、本作の舞台は西暦2083年。
多くの名作が著作権切れによりフリーとなっており、かつ個人レベルで商業出版並の”簡易製本”が可能となっている世界だそうです。
その結果、新作小説の需要が無くなっているというのは面白いところ。
佐藤友哉の『1000の小説とバックベアード』に登場する”特定の個人に向けて物語を書く”「片説家」みたな商売が成り立ってたりするかも?
というか《wanna be》が成したことが「片説家」ぽいような。